バスが行く。排ガスを撒き散らし、熱気を撒き散らして。夏の空は青いなんて嘘。空がなにか透明な物質でできているのだとしたら、空とわたしのあいだには、熱気と水蒸気と、あなたの汗と、わたしの嘘と、とまどいと、そんなものが無数に浮かんでいて、じわりじわりと世界を不透明なもので埋め尽くしていく。
バスが行く。2台目のバスが。あなたはなぜバスに乗らないの?
そしてわたしは、なぜバスに乗らないの?
蝉の声がうるさい。膝から下だけを照らす直射日光がうっとうしい。夏の午後は死んでる。手にした本の内容なんてぜんぜん頭に入ってない。海に行こう。海は遠い。空は遠い。ぜんぶぜんぶ遠のいて、ずっとこのままならいいんだ。
3台目のバスは、来ない。